身体障害者補助犬の普及・啓発のあり方に関する調査研究 報告書 概要版 1ページ 1.調査研究の目的 身体障害者補助犬(以下、補助犬とする)は、平成14年に「身体障害者補助犬法」の施行により、各施設等での受入が義務付けられたものの、未だ補助犬同伴による施設利用等に対する理解が浸透していない実態から、受入拒否などの実態が見られる。 そこで、自治体が実施している補助犬の使用に対する普及・啓発の実態、障害当事者の意識、受入事業者の認識などをアンケート調査等を実施して把握し、ここから整理される課題を踏まえた上で、補助犬の普及・啓発のあり方を整理し、普及活動については試行を行った上で、自治体の皆さまに向けた「身体障害者補助犬使用者の効果的な普及・啓発活動のあり方ガイドブック」を作成することを目的に実施を行った。 実施にあたっては、「身体障害者補助犬の普及・啓発のあり方に関する調査研究検討会」を以下をメンバーとして構成し、4回の検討会の実施により、調査内容の検討及び精査を行った。 【身体障害者補助犬の普及・啓発のあり方に関する調査研究検討会 検討委員】 座長:慶応義塾大学経済学部 教授 中野 泰志 委員:アクセスプロジェクト 主宰 川内 美彦           日本身体障害者補助犬学会 理事長 秋田 裕 三重県子ども・福祉部障がい福祉課 課長 森岡 賢治 宝塚市健康福祉部福祉推進室 室長 吉田 恭子 全日本盲導犬使用者の会 会長 深谷 佳寿    日本介助犬使用者の会 会長 木村 佳友 日本聴導犬パートナーの会 代表 安藤 美紀     一般社団法人日本ショッピングセンター協会 常任参与 村上 哲也 一般社団法人日本ホテル協会 事務局長 岩佐 英美子 特定非営利活動法人日本補助犬情報センター 専務理事 橋爪 智子 オブザーバー:厚生労働省社会援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室 専門官 秋山 仁、係長 鈴木 達也 事務局:社会システム株式会社 企画調査グループ 高光 美智代、向井 伸一、牧村 雄 2ページ 2.身体障害者補助犬の啓発活動の実態把握 ① 自治体等による取組みの実態 身体障害者補助犬育成事業に係る自治体(都道府県、政令市、中核市)を対象としたアンケート調査*、補助犬に係る取組みを実施している自治体に対するヒアリング調査を実施し、実態を把握した。 *NPO日本補助犬情報センターの実態調査と連携して実施。121のうち79%の96自治体から回答を得た。 【自治体アンケート結果概要】 ・平成30年度の取組みは「啓発活動」が最も多く、次いで「理解促進」の取組みであり、啓発に係る取組みが多い。 ・理解促進の取組み内容としては、自治体担当者向け研修、飲食店等受入事業者向け説明、インフォメーションデスクの設置、一般向け啓発イベント、学校への講師派遣や出前講座などの実施が見られたが、受入事業者への説明は従業員まで理解を得られているかは難しい実態であった。 ・啓発活動の取組み内容としては、ウェブサイトへの啓発事項の掲載、イベント等でのリーフレット配布、テレビ・ラジオでの広報、広報誌等への記事掲載、イベント等でのデモンストレーション、生活衛生同業組合に対する周知、学校への出前講座などの実施が見られたが、リーフレット配布だけでは理解が進まず、直接訪問が効果的ではあるが効率が悪いなどの課題が出された。 ・「身体障害者補助犬育成促進事業」の補助金利用の課題としては、県と市の情報共有の仕組みが作れていない、実施できる環境が整備されていない、ニーズが把握できていないなどが挙げられた。 【自治体ヒアリングで収集した主なグッドプラクティス】 ・ユーザー団体や障害当事者支援団体と自治体が連携体制をつくり、情報の共有や補助犬の使用に係る普及・啓発活動を実施し、地域における補助犬の使用に係るセンター機能を果たしている。 ・障害理解の研修における補助犬の使用についての説明や、補助犬の訓練実施を自治体施設で受け入れることなどを通じて、自治体職員などへの補助犬使用者の理解が深まっている。 ・補助犬の医療費の負担制度の導入によって、補助犬使用者を一元管理し、自治体と補助犬使用者のパイプを作っている ・飲食店での受入拒否があった場合、所管部署である食品衛生課の担当とともに説明に出向いた。また、広域専門指導員が個別に訪問して説明したなどにより、受入拒否に対する対策を図っている。 【相談支援専門員アンケート結果概要】 ・日本相談支援専門員協会事務局に依頼して各都道府県協会を通じ、回答案内をメールで送信し、42件の回答を得た。 ・補助犬の使用に関する認知度は高い一方、相談支援時における補助犬の使用について積極的に進めている専門員はいなかった。 ・補助犬の使用について今後積極的に進めていくための課題としては、入店拒否や頭数不足の問題の解消とともに、相談支援専門員自身の補助犬の使用に対する理解の深度化が必要であることが挙げられた。 ② 障害当事者(補助犬使用者及び非使用者)の意識 障害当事者団体、補助犬使用者団体を通じて、補助犬の使用者及び非使用者にアンケート調査を実施した。使用者41、非使用者152の回答を得た。 【補助犬使用者アンケート結果概要】 ・補助犬使用者が居住している地域で実施している啓発活動は、学校での出前講座、イベントでの活動、自治体職員等への研修、広報誌での紹介などが挙げられた。 ・啓発活動で理解していただくべき事項は「受入に対する理解」が最も多く、次いで「補助犬法の理解」「補助犬の役割」が挙げられた。 ・啓発手法としては「テレビ・ラジオ等の媒体による広報」が最も多く、効率的に広く啓発事項が浸透する手法が挙げられた。 【補助犬非使用者アンケート結果概要】 ・非使用者の152回答のうち、「補助犬の使用を考えていない」という人が約7割を占め、その理由として「面倒を見るのが大変そうだから」を最も多く挙げている。 ・補助犬の使用について知りたい内容としては、「費用」「申請方法」などの使用に関する準備や「サポート内容」などの補助犬との生活、「受入拒否された場合の対処方法」などが挙げられた。 3ページ ③ 受入れ側の認識、実態、課題 受入れ側の認識や実態を把握するため、日本ショッピングセンター協会会員、日本ホテル協会会員、飲食店に勤務する方へのアンケート調査を実施するとともに、交通事業者へのヒアリング調査を実施した。 【日本ショッピングセンター協会会員アンケート結果概要】 ・41社の回答を得たが、来店実績があったのが26社、種類は盲導犬が多い。 ・来店頻度は「それほど多くない」「把握している」が殆どを占めた。 ・補助犬使用者に対する対応についての研修や教育はほとんど実施されておらず、実施している場合の内容としては「補助犬法の理解」「一般利用者への説明方法」が比較的多く挙げられた。 ・苦情については受けたことがないが全体の8割以上であった。 ・補助犬使用者の受入の課題としては、行政機関の指導が必要、衛生面に対する問合せへの対応、一般ペットとの違いの認識方法、アルバイトスタッフまでの周知徹底などが挙げられた。 【日本ホテル協会会員アンケート結果概要】 ・102社の回答を得たが、来店実績があったのは80社、種類は盲導犬が多い。 ・来店頻度としては「不定期での来店がある」が最も多い。 ・補助犬使用者に対する対応についての研修や教育は「実施していない」が7割弱であり、対象は正社員等が中心となっている。 ・教育等を実施している場合の内容としては、「補助犬法の理解」「基礎知識」「接し方や誘導方法」「一般利用者への説明方法」が多く挙げられた。 ・苦情についてはうけたことがないが全体の約8割であった。 ・補助犬使用者の受入の課題としては、一般利用者の理解が不十分、接し方や誘導方法が分からないなどが挙げられた。 ・独自の取組み内容として、社内スタッフ向けのデモンストレーションや講習会の実施などが挙げられた。 【飲食店に勤務する方へのアンケート結果概要】 ・飲食店勤務の103名から回答を得た。うち、経営者が87名であった。 ・補助犬については名前も役割も認識している者が約8割であったが、補助犬法については名称も内容も知っている者は3割弱であった。 ・補助犬使用者の来店実績は低く、また補助犬使用者に対する対応についての研修や教育は実施していないが9割を越えていた。 ・課題として挙げられたのは、動物アレルギーのお客様の対応や衛生面、排泄の問題等であった。 3.理解促進、補助犬の使用拡大のための効果的な普及・啓発活動のあり方の検討 ① 普及・啓発活動のあり方の検討 啓発活動の実態や障害当事者の意識、受入側の実態を踏まえ、補助犬使用者に対する理解促進、補助犬の使用拡大のための効果的な普及・啓発のあり方を整理した。 【受入れ側に向けた理解促進のための啓発活動のあり方】 (1) 受入れ側の理解を得られやすいタイミング、手段で 補助犬使用者の来店の機会はいつでもあり得ることであり、受入れ側への周知は喫緊の課題である。しかし、受入事業者は業態・規模が多岐にわたるため、それぞれの職場環境や組織によって「補助犬使用者の受入」に対する理解を得ていくには、タイミングや手段を十分に考慮する必要がある。リーフレットの配布等も重要ではあるものの、効果的な手法を検討していくことも重要である。 (2) 広く理解を得ていくための手法の導入 一般市民に対しては、イベントやリーフレット配布も補助犬使用者を知る機会となるが、一過性となってしまう恐れもあり、広く理解を得ていくためにはメディアの活用により繰り返し情報を流していくことが必要である。ただし、一般市民が理解しておくべき内容を端的に伝えることが重要である。 (3) 受入事業者、自治体の連携による啓発機会の拡大 地域と自治体のつながりを活用し、各業態へのアプローチ、費用調達も含めた啓発活動場所の提供、必要な情報提供など啓発内容の検討などを、補助犬使用者など啓発活動の担い手を含めて連携し、効果的な啓発機会を拡大していくことが必要である。 (4) 補助犬使用者受入れのポイントを効果的に示す 補助犬法で補助犬使用者の受入が義務付けられていることのみでは、受入事業者の不安は払しょくされない。補助犬使用者が責任を持つことも規定され、衛生面をはじめ犬の行動管理をしていることを示すとともに、受入事業者が不安に思っている事項についてどのような管理をしているかを具体的な情報提供をするなど、ポイントを効果的に示すことが必要である。これは一般市民に対しても同様の内容を啓発していくことが重要である。 4ページ 【使用希望者に向けた利用拡大のための普及活動のあり方】 (1) さまざまなタイミングで 病院、手帳給付時、計画相談時、リハビリ時、当事者間での情報交換時などのさまざまな機会で補助犬の使用についての「具体的かつ正確な」情報を得ることで、個々の状態に合わせた使用希望のタイミングに合致することが期待でき、使用希望につながる可能性が広がる。 (2) ユーザー自身による普及 ユーザー自身が普及活動をすることで、具体的かつイメージしやすい使用のあり方を情報提供することが可能となり、障害当事者にとって身近に感じることが期待できる。 (3) 情報提供窓口や専門家の補助犬の使用に対する知識の深度化 情報提供の窓口となる自治体、各施設に配置されている障害者支援の専門家などは、補助犬の使用に対する知識を深度化しておくことが重要であり、「自立にかかる補装具機能のひとつとして、またそれ以上にパートナーとして」勧めることのできるスキルを持つことが必要である。 (4) 普及活動の担い手と自治体の連携の必要性 (2)に挙げたように、補助犬使用者自身による普及活動は障害当事者にとって効果が高いと考えられることから、イベント、研修会など補助犬使用者と使用希望の可能性のある障害当事者をつなぐための連携を図っていくことが必要である。 ② 障害当事者に向けた普及活動の試行の実施 整理した理解促進、利用拡大のための効果的な普及・啓発のあり方を踏まえ、普及活動について既往イベントや試行イベントの実施により、来場した対象者の意識調査を実施した。 ■日本点字図書館オープンオフィス及び勉強会 2019.11.09、11.27 視覚障害者(全盲、弱視) 既往イベントに対して意識調査のみ実施 ■TOKYO 耳カレッジ 2019.11.17 聴覚障害者 既往イベントに対して意識調査のみ実施 ■北里大学病院補助犬普及・啓発イベント 2019.12.03 病院来訪者、医療関係者 本事業の試行イベントとして実施 ■国立障害者リハビリテーションセンター補助犬普及イベント 2020.01.08 視覚障害者、肢体不自由、聴覚障害者、医療関係者 本事業の試行イベントとして実施 【試行実施結果概要】 ・インターネット等で一定の情報は得ているが、具体的な情報や使用者の生活実態などを聞いて具体的なイメージや情報を得ることができたとする者が多かった。 ・医療機関、リハビリテーションセンター、障害当事者支援機関、障害当事者の多く集まるイベントなどさまざま機会での試行を行ったが、それぞれ障害当事者にとって情報を得るタイミングとしてある程度有効であることが分かった。 ・チラシなどは情報を得るツールとしては有効ではあったが、視覚障害者への情報提供のあり方を検討する必要がある。 ・不特定多数が来訪する病院やイベントなどでは、普及は難しいが、医療関係者や一般市民など「支援機関」にも「受入れ側」にも訴求が可能である。 5ページ 4.身体障害者補助犬使用者の効果的な普及・啓発活動のあり方ガイドブック 身体障害者補助犬に係る実態把握や普及活動の試行実施から、理解促進、補助犬の使用拡大のための効果的な普及・啓発活動のあり方を整理してきたが、自治体が効果的に普及・啓発活動に取組めるよう、「ガイドブック」を作成した。 このガイドブックでは、自治体が取組むべき内容を整理するとともに、関係各者との連携体制の構築のあり方、普及・啓発活動に活用できるツールを作成し紹介している。 ■「身体障害者補助犬使用者の効果的な普及・啓発活動のあり方ガイドブック」構成 序.このガイドブックを活用いただくにあたって Ⅰ.補助犬の使用について普及・啓発を進めるにあたって理解すべき理念  1.補助犬は、障害当事者の自立や社会生活を送るために重要な役割を果たしています  2.「身体障害者補助犬法」により、社会における補助犬使用者の受入れが義務付けられています  3.「障害者差別解消法」などにより、共生社会の実現が求められています  4.補助犬使用者が生き生きと暮らせるよう、自治体は普及・啓発に努めていく義務があります  5.補助犬についての正しい理解を! Ⅱ.自治体の責任で受入拒否をなくし、法令遵守(コンプライアンス)を推進する  1.補助犬使用者の受入拒否は法令遵守上問題であることを理解させる  2.受入事業者には、具体的な「補助犬使用者の受入の必要性やあり方」のわかる啓発活動の実施が必要  3.一般市民には、「補助犬の使用に対する正しい理解」や「障害理解」を進める啓発活動の実施が必要 Ⅲ.障害当事者の自立と社会参加を図る「補助犬の使用を拡大する普及活動」の実施は自治体の役割  1.「補助犬の使用」は、障害当事者の自立と社会参加の選択肢のひとつ  2.障害当事者が自立のあり方を考えるタイミングにおける普及活動の展開  3.補助犬使用者参加型の普及活動の期待される効果 Ⅳ.自治体が中心となって「連携体制」を構築し、普及・啓発を推進する  1.普及・啓発活動の実施体制は、関係各者との連携が必要  2.自治体における連携体制の強化(自治体内や都道府県と市町村の連携)  3.障害当事者(補助犬使用者)とのパイプをつくる Ⅴ.普及・啓発活動に活用できるツール 終わり